「新型コロナ対策についての決定は、感情や政治的なイデオロギーではなく、事実とデータに基づいて下す」と会見で語ったニューヨーク州のクオモ知事(5月7日、ニューヨークのニュース専門局NY1の中継より)
「過去に時間を戻せるなら、おそらくバーの営業再開を遅らせただろう」
南部テキサス州のグレッグ・アボット州知事(共和党)は6月26日、バーの営業停止とレストランの入店制限強化を命じた。新規感染者と入院者の数が過去最悪を更新したためだ。アボット知事が5月下旬に専門家の懸念を一蹴して始めた経済再開は、逆戻りの道をたどる。
アメリカでは現在、30州超で新規感染者数が急増し、全米の1日の感染者数は7月9日(米東部時間)で6万4000件と過去最悪の水準となった。米疾病対策センター(CDC)によると、4月に一度達したピーク時の60%増に迫る勢いだ。
一方、一時は新型コロナの爆発的感染の地となったニューヨーク州は、経済活動再開への道を着実に進んでいる。その後ろ盾が、1日に約6万6000件実施しているPCR・抗体セットとなった検査体制だ。検査によるエリアごとの感染率は、4段階と定めた経済活動再開について、どのエリアがどのタイミングで次の段階に進むのかという指標となっている。
Google Mapに最寄りの検査可能場所を表示
筆者は6月26日、ニューヨーク市ブルックリンにある「CityMD」というチェーンのクリニックで検査を受けた。展開するチェーンの全てで無料検査を提供している。
予約なしの検査が受けられるのはクリニックや病院、教育、薬局、ドライブスルーの駐車場など無数にある。受けられる場所は、市役所のウェブサイトで自分の住所を入力して検索できる。Google Mapとも提携し、出先で「コロナ検査」と打ち込むと最寄りの検査施設が表示される。
朝一番に並んで炎天下で待つこと3時間20分。ソーシャルディスタンスを保ちながら、長い列が少しずつ進む。高齢者や子ども連れのヒスパニック系家族は、折りたたみ椅子を街路樹の影に置いて家族を待たせ、父親だけが列で順番を待っていた。
一度に待合室に入れるのは、7人だけ。入ると、タッチパネル式端末に名前、住所、電話番号、メールアドレス、人種、出身国籍などを入力し、身分証明書を見せる。
その後5分で、看護師助手が診察室に案内し、血圧と体温を測りながら、検査の説明をする。
「今日はCOVID-19の検査で来たんですね」
「はい、症状はないので抗体検査を希望します」
「ニューヨーク州は、PCRと抗体検査双方をお勧めしています。双方で3分しかかかりません。ではドクターを呼びます」
看護師助手と入れ替わりに黄色いガウンの医療用防護具(PPE)に覆われた医師が来て、最初に血液を取る抗体検査、次に長いスワブという棒を両方の鼻孔に入れるPCR検査を手早くこなした。このクリニックだけで毎日100〜150人を検査しているという。これは、東京都世田谷区の155件(7月6日、PCRのみ、世田谷区役所による)と同じ程度だ。
「結果は、3〜5営業日でメールとショートメッセージに届きます」と医師。そのまま、外に出された。屋内にいる人数を一定に保つためだ。
毎日のようにニューヨーク市から送られてくるショートメッセージ。「ニューヨーク市からのお知らせ:今日、新型コロナのテストを受けましょう。無料で個人情報の保護は保証、ご近所で受けられる場所は以下です」
撮影:津山恵子
7月5日、ショートメッセージに結果が来た。
「こちらのリンクに行って、電話番号で結果をチェックできます」
結果は、PCR検査で「検知せず」、抗体検査で「陰性」。土日を合わせると9日間待ち、やきもきしたが営業日という意味では5日で通知があった。
希望すれば何度も無料で受けられる
もし陰性だった場合、再び検査を受けられるのか。
自営業ジョシュ・ケイス氏は何度か熱っぽく感じ、喉の痛みがあったため、2回検査に行ったが、2回とも「検出せず」「陰性」だった。自分の体調が優れず心配な時、感染者と接触した可能性があると感じた時、希望すればいつでも検査を気軽に受けられる。しかもこれは医療保険に加入していなくても、不法滞在でも受けられる無料行政サービスなのだ。
さらに市役所サイトでは、以下の場合「再検査を受けなければならない」と案内している。
- 新型コロナウイルスに触れた恐れがある場合
- 人混みに行った場合
- 陽性か陽性の可能性がある人に接触した場合
- 症状がある場合(注:症状は別欄で指示されている)
- 高齢者施設、シェルターで働いているか、あるいは新型コロナに感染したら重症になる可能性がある人を訪問する予定がある場合
「経済再開を決定するのは数学だ」
REUTERS/Cooper Neill
ニューヨーク州とニューヨーク市が、検査体制をここまで拡充した経緯をたどってみる。
4月19日 ニューヨーク州のクオモ知事が、ニューヨーク州で感染ピークを越えたという判断から「経済活動を再開させるという計画はどんなものであれ、データに基づかなければならない。それは、検査に基づくデータを意味する」と表明。「何人が実際に感染し、何人が感染したものの自然治癒したのかこれまでは分からなかった。それは大規模な検査ができなかったためで、ニューヨークは抗体検査を実施することで、新たな出発をする」と、大規模な検査体制を整備することを発表した。
4月23日 クオモ知事が、無作為に選んだ州内約3000人のスーパーマーケット従業員を対象にした最初の抗体検査結果を発表し、13.9%が陽性だったことを明かした。ニューヨーク市で21.2%に上ったが、地方では3.6%にとどまった。人種別に、黒人とヒスパニック系で陽性率が高いため、彼らを対象に教会など宗教施設を検査施設にする計画を発表。クオモ知事は米食品医薬品局がこの抗体検査結果を「今の瞬間を切り取った最初で現実のデータ」と認めたとし、抗体検査を拡大する姿勢を示した。
4月25日 クオモ知事が、「検査は経済再開のための鍵となる要素」とし、州内5000の薬局でPCR検査をできるようにする行政命令に署名。PCR・抗体検査能力を1日2万件にすると発表。
5月17日 クオモ知事が、検査施設にドラッグストア・チェーンCVSなどを加え、検査能力を1日4万件に増やすと発表。生中継の会見中に、鼻孔にスワブを入れる検査を実際に受ける様子を披露。
5月18日 クオモ知事が、経済再開のフェーズを決める基準を発表。
- 病院の一般病棟の病床が30%空いていること
- 病院の集中治療室(ICU)の病床が30%空いていること
- 住民1000人当たり、月に30人が検査を受けていること
- 住民10万人当たり、30人の陽性者追跡専門家がいること
- 平均感染者数(Rt、1人の感染者から生まれた感染者数)が、1.1より小さいこと
「経済再開は、誰かの意見で決めるものではない。政治的意見でもなく、個人的意見でもなく、理想でもなく、地理でもない。決定するのは数学だ」と強調した。Rtは、検査のサンプルが少ないほど誤差が大きくなり、実態が把握しにくくなる。
まとめると、ニューヨーク州が躍起になって検査を実施しているのは、以下の理由だ。
・「感染を抑えるのに必要なのは、コミュニティーにどれほどの感染者がいるのか把握することです。それができるのは、広範囲な検査しかありません」(アンソニー・ファウチ米国立アレルギー感染症研究所)というように、検査数が多く、平均感染者数が1.1より小さければ、「感染を抑制している」証拠になる
・検査によって、陽性者が分かれば、追跡・隔離ができて、無症状の人による不特定多数への感染を予防できる
・Rtをより正確に把握し、経済活動再開が感染拡大につながらないバランスを見極める
感染者急増の州では検査数が伸びていない
トランプ大統領は、現在の感染拡大についてこう語った。
「正直、検査をすればするほど、感染者が見つかる」(6月24日、CBNニュース)
しかし実際は、政治ニュース専門サイト「Axios」によると、感染拡大に襲われている多くの州で、検査が追いついていない状況が浮かび上がる。
例えば、南部フロリダ州で新規感染者数(6月23〜30日)の増加率は、1カ月前に比べ109%なのに対し、検査数の伸びは69%増に止まった。南部テネシー州も、新規感染者数が61%増に対し、検査数は32%増だ。
ニューヨーク州やワシントンDCなど感染拡大を抑え込んでいる州以外では急速に感染が拡大し、トランプ大統領の支持率低下にもつながっている。トランプ政権は7月7日、問題となっている南部のルイジアナ、テキサス、フロリダ州の大都市で検査数を急増させると発表した。
小池百合子都知事もPCR検査数が増えれば陽性者も増えると説明しているが、辻守哉・コロンビア大医学部感染症内科学教授は、こう指摘する。
「日本では未だに検査数が少なく、なぜもっとアグレッシブに検査を奨励しないのか、全く不思議です」
(文・津山恵子)
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July 10, 2020 at 10:00AM
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ニューヨーク州は無料で希望者全員に1日6万6000人検査。経済活動続けるなら検査拡充がカギ - Business Insider Japan
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