
新型コロナ患者の遺体を運ぶ医療スタッフ=ロイター
「どうかニューヨークが犯した過ちから学んで」
ニューヨーク市マンハッタンのグリニッビレッジで3世代にわたって葬儀場を営むピーター・デルーカ氏。新型コロナウイルスの感染爆発で市内の死者数が激増し、朝6時から夜10時まで休憩する間もなく働く毎日を送っているという。目の前の仕事に専念しなければならないからと取材は辞退したが、筆者の元にこんなメッセージを残した。
「日本の皆さんに伝えてください。(レストランでの飲食や外出禁止、社会的距離を取るなど)ニューヨーク州が採用した対策をできるだけ早く採用してください。我々の過ちから学んでください、と。どうか安全にお過ごしください。ピーター」
市内で初めて新型コロナの感染者が確認されてから、2020年4月12日で6週間が経過した。今、市内では「葬儀システムの崩壊」が深刻化している。
感染爆発でまずやってくるのが、入院患者数の急増による「医療システムの崩壊」だ。米国では、検査で陽性と診断されても、症状が悪化していなければ基本的には自宅で療養を続ける。熱が下がらない、息苦しいなどの症状が続いた場合のみ病院へ行き、入院が必要と診断されれば入院する。
対応する患者の数を減らすのが狙いだが、それでも市内の病院は新型コロナ感染症の患者であふれ、集中治療室(ICU)を埋めていることは既報の通りだ。
■感染者増→入院者増→死者増に4日の時差
ニューヨーク市における1日当たりの新規入院患者数の推移が下のグラフだ。1日当たりの感染者数が5642人とそれまでの最多を記録したのが3月30日だった。その4日後の4月3日、新規患者数が1632人に達し、過去最多となった。

ニューヨーク市内の新型コロナによる1日当たりの新規入院患者数の推移(4月12日現在)。ニューヨーク市のサイトより
その次にやってきた波が死者数の急増だ。新規患者数ピークの4日後の4月7日、1日当たりの死者数が476人に到達した。これはニューヨーク市内のみの数字で、州全体だとここ数日間、1日に700人以上が亡くなっている。4月12日時点で、これがピークとは言い切れないが、高止まりしている状態だ。

同死者数の推移(同)。同じ市のサイトより
医療崩壊に少し遅れてやってきた葬儀システムの崩壊──。その実情を900以上の葬儀事業者が集まるニューヨーク州葬儀事業者協会(New York State Funeral Directors Association)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるマイケル・ラノッテ氏に聞いた。
■冷凍トラックが臨時の遺体安置所に
ラノッテ氏によると、例年、州内の年間死者数は15万5000人程度で、単純計算すると1日の死者数は425人となる。先に触れた「新型コロナによる1日当たりの死者700人」というのは、この通常の死者数に加算される数字だ。つまり、感染爆発により通常に比べて死者の数が約2.5倍に膨れ上がった計算になる。
葬儀システム崩壊の1つめは、圧倒的な量の増加による遺体安置所不足だった。
まず米国における通常の葬儀の流れから見ていく。病院で亡くなる場合とそうでない場合、また信仰する宗教などによって異なるが、基本的には下記の流れで進む。ラノッテ氏によると、全てを終了するまでには死から通常、3~5日を要するという。
(2)家族の依頼で葬儀場の担当者(Funeral Director)が遺体を引き取り、葬儀場へ搬送
(3)葬儀の執行
(4)火葬する場合は火葬場(全体の約半分が火葬という)
(5)墓地に埋葬
「変化が起きたのは3月中旬あたりだった」とラノッテ氏は振り返る。一部の病院の安置所がいっぱいになり、市の監察医務局が冷凍トラックを各地の病院に配備するようになった。葬儀事業者の遺体収容が追いつかなくなったためだ。市は45台の冷凍トラックを用意し、そこを遺体安置所の代わりとした。
葬儀場も遺体であふれた。米タイム誌によると、4月初旬、ニューヨーク市ブルックリン地区の葬儀場では、20の遺体が地下室に収容され、さらに十数の遺体が別棟の教会に安置されていたという。いずれも冷房を利かせているだけの通常の部屋だ。
■遺体に「お別れ」もできない現実
葬儀崩壊の2つめは、葬儀事業者の圧倒的な人手不足だ。
数が増えたからといって、1件1件の葬儀をおろそかにすることはできない。故人をしのぶにふさわしい葬儀はどのようなものかを家族と協議して準備し、遺体に適切な処理を施して納棺するのも相応の時間がかかる。
大きな集会は禁じられているため、葬儀は家族だけのごく少人数のものだけに限られる。だが、その家族でさえも常に「社会的距離」を取ることが義務付けられている。
複数の家族が同じ日に実施する場合は、動線を個別に確保し、さらに1件の葬儀が終わった後は部屋の家具や装備品など全ての消毒作業が必要になる。病院が抱えているのと、全く同じ問題に葬儀場も直面しているのだ。
実は、ニューヨーク州では遺体と家族の間でも6フィート以上の社会的距離を保たなければならないという決まりがある。そのため家族は遺体に近づくことすらできない。遺体安置所からの引き取りから墓地での埋葬まで、全ては葬儀事業者がほぼ単独で進めることになるのだ。
「ご家族はクルマの中からご遺体に別れを告げたり、埋葬も葬儀事業者だけで行って墓地の写真を撮って家族に送ったりすることもある」とラノッテ氏。冒頭でデルーカ氏が言っていたように、葬儀事業者は朝から晩まで働いている。それでも全く時間が足りない状況に陥っている。
これを受けニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は4月9日、同州外のライセンスを持つ葬儀事業者も州内でサービスを提供してもよいとする「知事令」に署名すると発言した。
また葬儀システム全体の中では火葬場も混雑のためネックになっていたが、4月初旬からニューヨーク市の規制が緩和され、夜間も火葬業務をしてもよいことになっている。
■墓地不足の中で注目される「島」
現在、新たな問題として注目が集まっているのが、墓地不足の問題だ。
「市のシステムは崩壊間近だ。近いうちに臨時の埋葬場所が必要になるだろう」
4月6日、ニューヨーク市議会保健委員会のマーク・レヴィン氏が、ツイッターにこんな書き込みをして話題になった。これを受け、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は「必要になれば用意する」とし、「場所は歴史的に見てもハートアイランドになるだろう」と説明した。
ハートアイランドは、ニューヨーク市ブロンクス地区の北東部にある島で、150年前から、引き取り手がいなかったり家族に埋葬する資金がなかったりする遺体を埋葬する「公共墓地」となっている。既に100万人以上が埋葬されているという。
4月10日、そのハートアイランドに新型コロナで亡くなった遺体が埋葬される様子が報道された。平時は週に25体のところ、現在は1日に24体が埋葬されているという。この場所が臨時墓地にも使われる可能性が出てきた。
新規の入院患者数がピークを越えたと見られるニューヨーク。近く死者数も減少傾向に転じると見られるが、減っているのはあくまで「1日当たりの人数」だ。今も総数は、目を覆いたくなるペースで増え続けている。
最後にラノッテ氏に「日本に届けたいメッセージはありますか」と聞いた。すると、こんな答えが返ってきた。
「もしまだ『若ければ感染しない』と思っている人がいるなら、それは完全に間違いです」
「私たちはこれまでたくさんの若い人たちが新型コロナに感染し、具合が悪くなり、亡くなっているのを見てきました。自分は大丈夫でも、感染しているのに気づかず両親や祖父母と接触し、うつしてしまったという若者も多くいます」
「家族を守るためにも、外出はせず、社会的距離を取ることを徹底してほしいと思います」
(日経ビジネスニューヨーク支局長 池松由香)
[日経ビジネス電子版 2020年4月13日の記事を再構成]
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April 15, 2020
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