緊急帰国を余儀なくされた「ニューヨークの日本人留学生」が語るアメリカの大学の現状。
Spencer Platt/Getty Images
まさかニューヨーク大学(NYU)での4年間の学生生活をこんな形で終えることになるとは思っていなかった。
卒業式に着るニューヨーク大学の真紫のガウンが気に入っていなかった自分はかねてから冗談まじりで「この色のガウンは着たくないね」と友人と話していたが、予想外の形でそれが現実となってしまった。
最終学期にニューヨークから緊急帰国
まさか、大学卒業直前にニューヨークを後にするとは。
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筆者は、私立ニューヨーク大学のグローバル・リベラル・スタディーズ学部の正規留学生(4年生)だ。本来なら卒業論文の最終仕上げをし、卒業の準備をしているはずだったが、新型コロナ禍で状況は一変。現在は日本に帰国し、5月中旬までオンラインで授業を受けていた(すでに授業は終了した)。
部屋の中の物を全てパッキングし、早朝の便で緊急帰国したのは3月16日。
ニューヨークとは13時間の時差があるため、夜10時半から深夜まで授業があるほか、早朝にも授業やミーティングが続き、寝不足が2カ月間続いているような状況だった。
筆者はギリギリのタイミングでニューヨークを抜け出せたが、おなじ留学生の中には帰国もできず、ニューヨークに残って感染してしまった人もいる。さらには、筆者が大学1年からボランティアをしていたNPO団体の理事長は新型コロナにより急死した。
また、筆者のような学生のほとんどは、新型コロナによって授業や就職活動、インターンシップに多大な影響が出ており、不安も大きい。ここでは「ニューヨークの日本人留学生」のひとりとして、アメリカの大学の現状を伝えられればと思う。
オバマ前大統領とのバーチャル卒業式
テレビ各局ではオバマ大統領らによるバーチャル卒業式が催され、YouTubeでも配信されている。
動画:NBC News
まず、卒業式の中止や延期の問題がある。筆者の通うニューヨーク大学もそのひとつだ。
代わりとして、アメリカの複数のテレビ局(ABC、CBS、NBC、Fox)がバーチャル卒業式を2020年卒の学生を対象に実施し、オバマ前大統領やノーベル平和賞受賞者のマララ・ユフスザイなどの著名人が出演予定だ。
さらに、Facebookも卒業式を主催すると発表している。有名テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーや歌手のセレーナ・ゴメスが出演するという。
多くの大学で著名人が卒業生に向けてスピーチをするアメリカの卒業式は、学生にとって人生の区切りをつけ、新たなステージに一歩踏み出す重要なセレモニーだ。ちなみにニューヨーク大学の卒業式には、ヒラリー・クリントンやカナダ首相のジャスティン・トルドーが出席したこともある。
特に留学生の多いアメリカでは、First Gen(第一世代)と呼ばれる、それまでの家族の最高学歴が高卒以下で、一家で初めて大学に進学し卒業する学生も多くいる。彼らにとって卒業式は家族史にもかかわる重大なイベントだ。
このような背景もあり、ニューヨーク大学では新型コロナが収束した際には必ずヤンキーススタジアムで2020年卒業生のための卒業式を実施することを明言しているが、多くの大学では完全キャンセルとなっているケースが多い。
5億円の払い戻しを求め訴訟
特にオンライン環境でできない授業を多く持つ学生にとって、学費問題は深刻だ(写真はニューヨーク大学の図書館にて)。
筆者提供
日本と同じように、新型コロナによって学生が直面している経済ショックは甚大だ。
教育系NPOであるカレッジボードによると、アメリカの4年制大学(私立)の平均の学費は年間約350万円である。中でもマンハッタンにあるニューヨーク大学は学費が高いことで有名で、寮費なども合わせると年700万円を超える。筆者は幸いにも奨学金をもらっているが、ニューヨークでの生活費は、学生でも月に平均10万円はかかる。新型コロナによってバイトを失うなど、多くの学生が想定外の経済的負担に直面している。
特に奨学金を受けて学んでいる学生は、この状況の最前線に立たされている。
ニューヨーク大学は、アメリカの中でも比較的新型コロナ対応は充実しており、実際に100億円以上を費やしているが(後半に詳述)、学生が満足しているかというと決してそうではない。
レディー・ガガが通ったことでも知られる芸術学部のティッシュ・スクール(Tisch School)はオンライン環境ではできない授業内容が多く、学生は総額約5億円の授業料返還を求めた訴訟を起こしている。
SNS上での抗議活動も活発化している。ニューヨーク大学有志の学生によって開設されたInstagramアカウント上では、上層部の報酬を名指しで公開し、学生やスタッフの損失額などと照らし合わせた画像が投稿されている。
留学生が直面するビザ問題
アメリカ政府は外国人労働者を含む移民の一時受け入れ停止をしている上、OPT(約1年間の就労ビザ)の条件なども再検討しているため、海外留学生には厳しい局面が続いている。
REUTERS/Jonathan Drake
5月に大学を卒業し2020年夏や秋の就職を目指していた多くの学生が内定取り消しに直面している。筆者の友人も多くがリンクトイン(LinkedIn)上でこの現状を嘆いている。
在学生や新規卒業生のための夏の長期インターンも多くが中止となっている。仮に実施しても、例えばPwCやFacebookは期間を短縮してオンラインでの実施だ。
さらに、海外留学生には「ビザ問題」というまた別の問題が起こっている。
アメリカに留学する学生(短期留学などは除く)は卒業後にOPTという約1年間の就労ビザがもらえ、その1年間の中で、その後の就労ビザのスポンサーとなってくれる雇用主を見つけたり、大学院へ出願したりする。
しかし、このOPTは本来、申請時に学生がアメリカに滞在していなければならないほか、一定期間内で就労を開始しなければならないといった条件がある。筆者のように緊急帰国を余儀なくされた学生や、そもそも感染状況や渡航条件などにより、アメリカに就労開始時期までに再入国できない学生はOPTを諦めなければならない。
大学卒業後は国際機関での勤務を予定していた筆者も、コロナの影響でプランの変更を余儀なくされた。
筆者提供
筆者自身もそんななか、大学を卒業する1人だ。本来であればニューヨークにある国際機関で経験を積んでからの大学院進学を考えていたが、卒業後のプランは変更を余儀なくされた。
アメリカ国内の経済状況が急速に悪化する中、移民に職を与えるのは筋違いだという声が大きくなっているのも事実だ。
フォーブスなどの報道によると、アメリカ政府は外国人労働者を含む移民の一時受け入れ停止をしている上、OPTの条件などの再検討もされている。
秋学期以降も授業がある留学生は今、そもそもアメリカに戻って授業を受けられるかどうかという懸念がある。日本にいながら国外の大学に在籍することの意味も考えなくてはならないだろう。これは日本では全く議論されていないが、例えば国内の大学が1年程、日本人留学生を特別に受け入れるなどの対策をとることも、検討されるべきかもしれない。
カリフォルニア州は400億円の損失
年間100万人以上いるアメリカへの留学生の減少が予測され、留学生からの収入の相当額の減少が見込まれる。
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大学側の経済的損害も大きい。ニューヨーク大学の公式発表によると、夏学期だけでも150億円の損失を見込んでいるという。アメリカの教育系調査会社であるプライヤー・エデュケーション・インサイツ(Pryor Education Insights)は、2020年の秋からは進学せずにギャップイヤーをとり入学を遅らせることを検討する学生が増加すると予測している。
アメリカの教育コンサルティング会社、シンプソン・スカボロー(Simpson Scarborough)が実施した調査結果によると、新型コロナウイルスの影響を受けて、9月に大学に入学予定の約2割の高校生が入学を辞退する可能性があるという。
また、3月中旬から世界各国のアメリカ大使館で学生ビザの手続きができていないことに影響され、年間100万人以上いるアメリカへの留学生の数が減ることも予測されている。
これにより、全米で年2500億円以上ある留学生からの収入の相当額の減少が見込まれており、カリフォルニア州では400億円、ニューヨーク州では300億円以上の損失が懸念されている(ブルッキングス研究所の調査)。
これらの長期的な損失への対応として、授業料やその他費用の値上げの可能性が見込まれる他にも、しばらく大学が学生をスタッフ(Student Job)として雇わない可能性などもあり、これは奨学金受給生や留学生などの大学でのバイトを通して生活費を賄う学生への大きな影響が懸念されている。
ニューヨーク大学は100億円の新型コロナ対策
ニューヨーク大学ではオンラインの学習環境の設備が予め整っていたためスムーズにオンライン授業への切り替えが可能だった。
Sean Pavone/Shutterstock
アメリカで学ぶ日本人留学生にとって、新型コロナの影響は将来のキャリアを左右しかねない深刻な問題だ。
その一方で、3月からニューヨーク大学の対応を見てきた学生として、全世界にキャンパスを持ち、同時に140カ国から学生が学びにくるグローバル大学としての迅速な対応に感銘を受けることもあった。
例えば、ニューヨーク大学では新型コロナが感染拡大する前から、Zoomと提携し、オンライン授業・ワークショップシステムは既に構築されていた。
オンラインでの学習環境の設備が予め用意されていたからこそ、授業中止ではなくオンラインの授業実施にスムーズに移行できた。
筆者が受けていた、オンラインでの授業の様子。
筆者提供
さらにニューヨーク大学は留学生のために、これまで総額3億円以上の緊急帰国費用を援助している。また、コロナによる学生への経済的影響に対処する為、ニューヨークキャンパス閉鎖前に学内でバイト(Student Job)を持っていた学生には給与の支給が継続されている。
また、学生自身や家族が金銭的影響を受けている場合のため、これまで4億円以上の資金を援助した。これに加え、寮費、学食代の払い戻しに60億円、他にも一部授業料の払い戻しやオンライン環境の強化など合計すると100億円以上のコストがコロナ対応にかかっていることが大学側から学生に伝えられている。
4月27日に送られた、大学から学生へのメール。約100億円の資金援助、総額3億円以上の緊急帰国援助などについて触れられている。
筆者提供
世界中の人々が新型コロナの影響に翻弄される中、日本人留学生を含むアメリカで学ぶ大学生も大変な現状に直面している。新型コロナはすでに私たちの日常を激変させているが、これからは大学や教育にさらに長期的な影響をもたらすことになるだろう。
(本文敬称略)
(文・小杉山浩太郎、編集・西山里緒)
プロフィール:小杉山浩太朗(こすぎやま・こうたろう)
1997年東京生まれ。17歳の時に全寮制インターナショナルスクールUWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ)のカナダ校に日本代表として経団連から全額奨学金を受け進学。卒業後2016年にニューヨーク大学グローバル・リベラル・スタディーズ学部へ進学し政治、人権、開発等を専攻、平和紛争学を副専攻する。在学中には国連本部でのインターンや、ニューヨークの公立小学校でのボランティア、また世界最大手の人材サービス会社アデコグループの1ヶ月CEO日本代表に7000人の中から任命された経験がある。
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May 19, 2020 at 09:32AM
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