「爆買い」ではなく必要経費としての「入れ替え」
日本がF-35戦闘機を105機買うことに対して「爆買い」と批判されることがありますが、これは間違った言い掛かりです。実際には戦闘機の総数は変わらず40年も使った古い戦闘機を引退させて新しい戦闘機と入れ替えるだけで、必要経費に過ぎません。一般家庭でも自家用車を40年以上も使い続けたりしませんし、パソコンやスマートフォンに至っては数年で買い替えるのが普通です。性能的に限界が来たら買い替えるのと同じことなのです。
- 2011年12月20日 F-35戦闘機42機の購入を閣議決定(F-4戦闘機と入れ替え)
- 2018年12月18日 F-35戦闘機105機の購入を閣議決定(F-15戦闘機Pre-MSIPと入れ替え)
ゆえに新旧の機材の入れ替えに対して「爆買い」という表現を用いたメディアの記事は全て間違いと見做して構いません。「爆買い」という表現を用いる政治家も間違いです。もし戦闘機の定数を大きく増やして追加で大量購入したならば爆買いという表現で正しいかもしれませんが、現実はそうではありません。最近ドイツも新たに戦闘機138機の購入方針を表明しましたが、105機の購入を爆買いだと言うなら138機の購入もそう言わないといけなくなります。しかしこれも実際には単なる新旧入れ替えに過ぎません。
【参考】ドイツがアメリカ製「核攻撃機」の購入を決断(2020年4月23日)
それに爆買いするなというなら一体どうしたらいいのでしょう? 何十年も使って老朽化した古い戦闘機は引退しなければなりません。たとえ機体寿命が残っていて飛ばすだけなら可能であったとしても、元の設計が古過ぎるので性能は相対的に見劣りしてしまい敵の新型戦闘機を相手に戦い続けることは難しくなります。古い機械を何時までも使い続けられる筈がありません。機材を入れ替えるなという要求をずっと受け入れ続けていたら、何時の日かレシプロ機で敵のジェット機に立ち向かうような技術格差に陥って一方的に蹂躙されて負ける羽目になります。
つまり自衛隊の存在を必要だと認めている人ならば、兵器の新旧入れ替えは受け入れて認めなければなりません。自衛隊の存在を否定して戦力放棄を望む人しか、兵器を入れ替えるなと主張する資格は無いのです。果たしてF-35戦闘機を爆買いと批判する人たちの中でそこまでの覚悟を持っている人はどれだけ居るのでしょうか。おそらく大勢の批判者は単なる機材の入れ替えだと気付いていないのではないでしょうか?
航空自衛隊は「軍事的」な戦闘能力でステルス戦闘機を希望した
F-35戦闘機の購入を「アメリカに買わされた」「トランプに買わされた」と政治的な押し売りのような決定であると批判する声があります。しかしこれは全く根拠の無い言い掛かりであり、特に「トランプに買わされた」は時系列的に完全に否定されます。
【参考】トランプ大統領の言いなりで買わされた兵器など存在しない? 意外な事実(2018年11月19日)
2014年1月12日に日本経済新聞が「F35戦闘機の購入拡大へ F15の一部代替」と報じています。これはトランプが大統領に就任する2017年1月20日の3年も前であり、この時点でF-35の105機追加購入は航空自衛隊の方針として既定路線でした。
日本がF-35戦闘機を購入した理由はアメリカの政治的な押し売りなどではありません。全く逆です。航空自衛隊が純粋に軍事的な理由でステルス戦闘機を欲しがって、歴代の政権はその望みを叶えただけというのが事実です。政治的な話では全く無いのです。日本の方から是非とも売って欲しいとアメリカに頭を下げて頼み込みました。
世界最強のステルス戦闘機「F-22」に恋い焦がれた航空自衛隊
ステルス戦闘機はレーダーに映り難く、空中戦では視界外の遠距離から一方的に勝利することが可能です。非ステルス戦闘機はステルス戦闘機を見付けることが出来ず、まともな戦いにすらなりません。航空自衛隊はステルス戦闘機こそが空を制すると、世界最強の称号を欲しいままにしていたステルス戦闘機「F-22」の購入を先ずアメリカに望みました。2005~2009年中期防衛計画の期間内に新戦闘機7機を取得するとしてF-22購入を目指すべくアメリカと交渉を開始したのです。
しかし交渉は難航し、アメリカは虎の子であるF-22戦闘機を門外不出の技術として他国への販売禁止を決定し、生産も停止して買えなくなってしまいました。
購入可能なステルス戦闘機はF-35のみ
F-22が買えないとなると、他に日本が買えるステルス戦闘機はF-35しかありません。航空自衛隊はどうしてもステルス戦闘機が欲しかったのです。それは純粋に軍事的な戦闘能力が理由でした。
- 2009年7月31日 F-22戦闘機の購入を断念(前日に米議会で生産停止が決定)
- 2011年12月20日 F-35戦闘機42機の購入を閣議決定(民主党・野田政権)
- 2018年12月18日 F-35戦闘機105機の購入を閣議決定(自民党・安倍政権)
F-22購入が不可能となった2年後にもうF-35に決めています。次期戦闘機の選定作業当時はF-35はまだ開発中であり、不完全な状態でした。まだ完成しておらず納入が遅れること、完成しても不具合の洗い出しが出来ておらず、暫くの間は欠陥を抱えたままになることを承知の上で航空自衛隊がF-35を選んだのは、ステルス戦闘機しか全く眼中になかったからです。それはF-22の購入を熱烈に望んでいた経緯からも明らかでした。多少の不具合が残っていようとステルス戦闘機は性能面で既存の非ステルス戦闘機を圧倒できるという確信があり、時代遅れな非ステルス戦闘機は必要無いと判断されたのです。
購入可能なステルス戦闘機がF-35しかなかったので一択だった、この理屈で考えると2011年にF-35を42機購入した時点で2018年にF-35を105機追加購入することはもう既定路線でした。2018年の時点でも日本が購入可能なステルス戦闘機はF-35しか存在していませんでした。
なお2020年5月11日のブルームバーグの記事によると、F-35戦闘機の重大な欠陥とされた「カテゴリー1A」は全て改善済みと報告されています。
【参考】F-35’s Image as $428 Billion Bundle of Flaws Improved by Fixes | Bloomberg
カテゴリー1Bがまだ3件残っていますが「パイロットの耳を傷つける可能性のあるコクピット内の過度の圧力」「特定条件下での暗視カメラ画像の不明瞭化」「レーダーの海上捜索能力の制限」とあり、最初の2つの問題は2021年、残る1つレーダーの問題は2024年に解決する予定とあります。レーダーの問題は暫く掛かりそうですが、そもそもF-35搭載用のJSM対艦ミサイルがまだ実装されていないのでそれほど困りません。
むしろF-35戦闘機を買わない決定こそが「政治的」な選択
カナダの場合
F-35の購入を予定していながら一旦白紙にした国にはカナダがありますが、その決定を行ったトルドー政権は考え直して次期戦闘機の候補にF-35を入れたままにして、今現在の情勢ではF-35が再び優勢となっています。
【参考】カナダは再びF-35戦闘機を選ぶのか(2019年6月19日)
2019年8月30日にエアバス・ミリタリー社はカナダ次期戦闘機選定でユーロファイター戦闘機の応募を取り下げると発表、撤退しました。これはカナダ政府が次期戦闘機選定でロッキード・マーティン社のF-35戦闘機が有利になるよう条件を急に変更したことが原因で、ユーロファイターが選ばれる可能性が低くなったことを嗅ぎ取ったからです。
【参考】Airbus pulls out of Canada fighter jet race, boosts Lockheed Martin's chances | Reuters
カナダ空軍は一貫して軍事的な性能面からF-35を望んでいましたが、トルドー政権がF-35見直しを公約に掲げて選挙に勝利した以上はカナダ政府として見直さなければなりませんでした。まだ最終的な結論は出ていませんが、F-35以外の機種が選ばれればそれこそ政治的な理由であり軍事的な理由ではありません。F-35が返り咲いた場合にはカナダは政治的に右往左往して10年もの時を無駄にした挙句、軍事的な理由で元に戻ったことになります。
ドイツの場合
ドイツはF-35を次期戦闘機候補に挙げながら選んでいません。一度も選んでいないのでそもそもカナダのような一旦選んでからのキャンセルではありませんが、ドイツ空軍はやはり性能面からステルス戦闘機であるF-35を望んでいました。ドイツ政府が空軍の要望を聞き入れなかったのはフランスと組んで新型ステルス戦闘機開発計画「FCAS/SCAF」を発動したからです。これはヨーロッパの独立性を保つという政治的な理由が大きく、次いで自国産業の保護という側面があります。迂闊にアメリカ製戦闘機を大量購入して主力機にするとアメリカに頼り切りになってしまうという懸念があったのです。
フランス空軍は国産戦闘機を開発する意思が非常に強く、アメリカ製戦闘機は最初から検討すらしていません。そのフランスと組むことをドイツは選びました。イギリスがEUから離脱してしまった以上、ドイツとフランスの結び付きこそがヨーロッパの連帯のほぼ全てです。FCAS/SCAF計画は失敗が許されません、もし開発失敗してアメリカまたはイギリスから戦闘機を買うようなことになれば、政治的な影響が大き過ぎるでしょう。F-35を買わずFCAS/SCAFに掛けるという選択はまさに政治的な決定そのものだと言えます。
なおドイツもカナダもF-35を買わなかった理由に技術的な問題は挙げていません。両国ともF-35を欠陥機だとは思っておらず、両国の空軍はステルス戦闘機であるF-35の戦闘能力を高く評価して欲しがっていました。
日本とイギリスの場合
- ドイツ/フランス・・・新型ステルス戦闘機FCAS/SCAF計画 ※F-35は購入せず
- イギリス・・・新型ステルス戦闘機テンペスト計画 ※F-35は138機購入予定
- 日本・・・次期戦闘機(新型ステルス戦闘機)計画 ※F-35は147機購入予定
アメリカとの同盟国でありF-35が購入できる立場にありながら、戦闘機開発能力を持ち経済力がある大国は軒並み新型ステルス戦闘機開発計画を発動しました。イギリスと日本はF-35を購入しつつ買い足すのはこれ以上は止めて、国産新型戦闘機を開発する動きに出ています。ドイツ/フランスほどではありませんが、自主独立性を確保しようとして同じような選択になりました。
アメリカ製F-35戦闘機を買わない決定こそが「政治的」な選択だと言えます。戦闘機の購入を批判する場合はこのことに留意してください。40年も使った古い戦闘機と新しい戦闘機との「入れ替え」が不可避である以上、何かは買わなくてはなりません。それでは何を買うべきか答えを持っていないと、説得力が何も無いのです。
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June 15, 2020 at 04:38AM
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F-35戦闘機の購入は爆買いではなく政治的でもない、むしろ逆(JSF) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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